欧州盲人連合が展開する静音車に関するキャンペーンの報告をご紹介します。
筆者は欧州の自動車大国ドイツの方です。
2014年4月3日、欧州議会で採択されたのが、2013年11月に審議された、自動車の音レベルに関する規定(COM (2011)856)の最終案。
この規則で、欧州の政治家も環境保護活動家も自動車産業も、環境面からの課題と「弱い立場の歩行者」の安全面のニーズを上手く融合したと受け止めていましたが、視覚障害者にとっては疑問が残りました。
環境に優しい技術か、人権か
静音車はここ数年急速に普及してきており、今後も拡大が予想されます。
視覚障害者ももちろん、健康増進、排気ガスの減少、燃費などの面で、この環境に優しい技術を歓迎はしましたが、同時に、安全や自立した移動の面で深刻な影響が出るのではないかと危惧もしています。
国連障害者の権利条約にも謳われているように、視覚障害者にも町に出て自分の力で移動する権利があります。
健常者と同じように、地元の道を安心して歩きたいし、店に行って買い物もしたい。
友だちとコンサートやレストランにも行って楽しい時間を過ごしたい。
けれども、静音車の出現で、この人権が脅かされ、自動車を音で検地できない視覚障害者にとっては道路の横断が命がけになってしまいます。
何が問題か
電気自動車やハイブリッド車は静か過ぎて視覚障害者は気づかないという研究結果が出ています。
内燃機関のエンジンがある車と比較すると、ぶつかる率は2倍です。
減速したり、止まったり、バックしたり、駐車場に入る時のような低速の時が一番危ないのです。
静音車が路地から出てくる方が、交通量の多い道路より遥かに危ない確立が高いです。
歩行者一般的に危険にさらされるのですが、自動車が近づいてくるのを見たり聞いたりできない視覚障害者が最も危ない経験をする可能性があります。
今後、静音車と内燃機関のある今までの自動車が混在するようになると、欧州での危険は更に増すと推測されています。
「ノイズファイル」と欧州盲人連合からの呼びかけ
2011年12月、欧州の各種団体が、自動車の音のレベルを劇的に下げつつ電気自動車やハイブリッド車の音が聞こえるようにするための法律(COM (2011) 856)の検討に入りました。
この法律が「ノイズ・ファイル」と呼ばれるようになったのですが、この法律で、環境面で騒音レベルを上げずに視覚障害者の安全を保障する文章としたのです。
欧州盲人連合は欧州に住む3千万人の視覚障害者を代表する組織として、欧州議会や審議会と協議を重ね、「弱い立場の歩行者」を最大限守る規則を目指しました。
道路の安全と交通アクセスに関するEBUの委員会では意見書を作成し、欧州議会リエゾン委員会が欧州議会等へのロビー活動に活用しました。
この意見書には、リスクシナリオが幾つか挙げられ、静音車が安全な技術となるために必要と思われる項目をリストアップしてあります。
静音車が視覚障害者に及ぼす危険を鑑み、EBUでは自動車メーカーに通称AVASと呼ばれる音による警報のようなものを電気自動車やハイブリッド車に義務付ける法規制を求めました。
AVASで自動車の作動状況、例えば加速や減速、方角や信号での一時停止(アイドリング)等が簡単に判別できます。
更に、規定案ではドライバーがAVASを鳴らさないように出来るポーズスイッチの義務も規定しているので、EBUとして懸念を表明しました。
ドライバーがAVASを付け忘れるかも知れないので、速度が0から時速40キロまではAVASを作動させることを義務化する必要があると考えます。
新しい法律の主な内容
現状では、視覚障害者の安全に影響する項目が2つあります。
1.AVASに就いて
2019年7月1日までに、ハイブリッドと電気自動車の新モデル全てにAVASを搭載すること、2021年7月1日までには全てのハイブリッドと電気自動車にAVASを搭載することが、自動車メーカーに義務付けられます。
2.ポーズスイッチ
AVASを付けたり消したりできるポーズボタンも同時に義務化されます。
音で自動車を知らせるAVASの搭載が義務付けられるのは良いのですが、ポーズスイッチの義務化が残っているのは非常に残念です。
自動車が再度走り出す際にはAVASが付いた状態になることになったので、以前の規定から改善は見られますが、付けたり消したりするのが面倒だからドライバーが付けっ放しにしてくれるようになるかどうかは、何とも言えません。
やはり、ポーズスイッチは禁止して初めて法律の効果が出るというものでしょう。
ポーズスイッチを残しておく理由としては、やはり、音のレベルを大幅に下げて環境に配慮するという、法規制を作る際の願いがあり、AVASで音レベルが下がらなくなってしまうかも知れないと危惧しているのでしょう。
けれども、最近のドレスデン大学の研究では、AVASの音量を新しい規制値に抑えつつ自動車の位置を音で認識するのは可能だそうです。
AVASを消した自動車が視覚障害者を撥ねた時の法的立証は誰が責任を負うのかも、明確にする必要があります。
また、移行過程がやや長すぎる感は否めません。
2021年まで、新しいハイブリッドや電気自動車は、AVASを搭載しなくても良いのです。
7年もの間、AVASを搭載していない静音車が大量に道路に送り出されるのです。
「弱い立場の歩行者」にとっては恐ろしくてたまりません。
終わりに
新しい規制案が出たところで、EBUのキャンペーンとしては、視覚障害者の安全を向上させ、安心して町に出られるよう、欧州連合加盟国や自動車メーカーに対し、ポーズスイッチの問題解決を確実にしてもらわなければなりません。
欧州の自動車製造協会との話し合いで理解が深まり、視覚障害者が許容できるような解決策を加盟各社にも促してくれることになりました。
コントロールメニューのあるポーズスイッチも良いかもしれません。